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送りバントは得点に結び付く?変わりゆく攻撃の考え方

送りバントを試みる打者

点取りゲームの野球において、重要な作戦の一つとして挙げられる犠牲バント。その作戦の成否が試合の勝敗を左右することも少なくない。しかし、大リーグでは犠牲バントの数が減少の一途をたどり、日本プロ野球の有効・無効とは異なる考え方が存在している。

2017年10月12日:用字用語の整理。

日本と大リーグの犠牲バントの数

大リーグ*1では5年前の犠牲バント*2の総数は1667回。昨シーズンは1025回と激減しており、1試合平均では0・21回となる。つまり、5試合で1回バントをするかどうかの頻度だ。

一方、日本プロ野球は昨シーズンの犠牲バントの総数は1367回。数字だけでは大差ないように感じられるが、大リーグとはチーム数や試合数が違うため、1試合平均で計算すると0・80回。あらかた4倍の差となるのだ。

  • 大リーグ:0.21回
  • 日本プロ野球:0.80回

犠牲バントに対する意識の違い

大リーグでは基本的に試合の序盤から犠牲バントによって走者を進めることを嫌う傾向にある。試合の終盤になって、ようやく実行することがあるくらいだ。そもそも、犠牲バントの企図数が少ないため技術力が低い背景もあるようだが、簡単にアウトカウント*3を敵軍に献上するより、強打を選択して一挙に大量得点を狙う考え方である。

対照的に日本プロ野球は先取点を奪って、試合の主導権を握ろうとする。そして、投手を中心に手堅く守り抜いていく傾向にあり、初回からでも犠牲バントを用いる場合が多い。効率性と合理性を意識する大リーグ、試合の流れや堅実性を重視する日本プロ野球。その意識の違いが犠牲バントの回数の差に如実に現れている。

犠牲バントは何のためにするのか?

無論犠牲バントは得点の確率を上げるために用いる作戦である。しかし、セイバーメトリクス*4の統計によると、必ずしも犠牲バントが得点に結び付かないことが明らかになっている。

走者の有無、アウトカウントの各状況別の得点率を見ていくと、一死二塁よりも無死一塁の方が得点率は高い。一死三塁よりも無死二塁の方が、いずれも得点の可能性が高いのだ。

  • 無死一塁 > 一死二塁
  • 無死二塁 > 一死三塁

つまり、犠牲バントによってアウトカウントを増やすことが逆効果となっているのだ。得点率を下げてしまっているので、打つ方が得点につながりやすいというわけだ。

このデータ*5に基づいて、昨今の大リーグでは2番打者に長打力のある打者を入れ、無死一塁の場合でも強打を選択することが主流となっている。しかし、このデータは投手が打席に立った場合と4番打者と下位打者が打席の場合に、戦術が異なる点まで考慮されていない。注釈付きのデータであることを付け加えておきたい。

得点率だけにくくれない、送りバントの二次的な効果

数字だけに着目すれば、送りバント*6による得点率の低下は、走者を次の塁に進めることを重視する日本プロ野球にとって衝撃的なデータといえよう。しかし、それは大リーグによる「ベースボール」の考え方であり、日本の「野球」には必ずしもそぐわないのではないだろうか。なぜなら、送りバントには数字には表れない「副次的な効果」があるからだ。

送りバントが与える精神的重圧と一点の重み

送りバントを用いることは確かに大量得点の好機を減らす作戦かもしれない。しかし、併殺打の確率を減らし、手堅く一点を奪うことは試合の流れをつかみ「主導権を握る」ことになる。

シーズン終盤戦や日本シリーズ*7などの重要度が高い試合であれば、先取点はより重みを増す。送りバントによって得点圏に走者を進塁させることで、敵軍に精神的重圧を与えることもできる。

一点を積み重ね、投手を中心に最少失点で守り抜き、競り勝っていく。これは数字では測れない、日本の野球ならではの野球文化と強みではないだろうか。

送りバントから展開される作戦の選択肢

状況にもよるが、打者がバントの構えをしたときに、相手監督はじめ野手たちはあらゆる攻撃を想定しなければならない。

打者に集中過多になると、走者が盗塁をするかもしれない。または、野手の隙間にプッシュバント*8をして、自らも生きようとする戦術もあり得るだろう。さらには、攻撃側の危険も大きいがバスター*9エンドラン*10で一気に勝負を懸けることもある。

仮にこれらの強行作戦が回の序盤で失敗したとしても、回が進んだ同様の場面において敵軍には「バント以外」が植え付けられている。そのわずかな緊張感が野手の失策を誘発し、投手の四死球や捕手の単調な配球につながることだってあるのだ。

つまり、必ずしも強打者が打席に立つことだけが、敵軍に精神的重圧をかける手段ではないわけだ。特に「野球」を愛するファンからすれば、そういった心理的な駆け引きにこそ楽しみを感じ、引き込まれるのではないだろうか。

送りバントに代表される、ただ打つだけではない部分に高い技術を備えることこそ、日本の「野球」の最大の強みであるはずだ。

まとめ

近年の大リーグでは、セイバーメトリクスによる理論が全盛となり、効率性や合理性が重視されている。日本プロ野球もそれに倣い、2番に強打者を入れたり、送りバントの場面でも強打を選択したりする事例が次第に増えてきた。しかし、このまま送りバントが消えていく戦術なのだとしたら、それは日本の「野球」が衰退に向かう気がするのだ。

なぜなら、日本には試合の流れや展開を読み、走塁・犠打・右打ち・配球に至るまで心理戦で攻略していく、独特の野球文化があるからだ。大リーグの考え方を取り入れていくことは、確かに采配の広がりや新しい楽しみをもたらしてくれる。

しかし、日本がこれまでに積み上げてきた、日本らしい野球文化を決して失ってはならないのだ。「送りバント」はこつこつと犠牲を無駄にしない日本の「野球」たる象徴なのだから。

*1:アメリカのプロ野球で,最上位の連盟。ナショナル-リーグとアメリカン-リーグの二つがある。メジャー-リーグ。ビッグ-リーグ。MLB。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:野球で,打者が走者を進塁させるために行うバント。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:【count】スポーツで,得点や時間を数えること。また,その数値。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【sabermetrics】野球データを統計的に分析し,選手の評価や戦略の立案などを行う手法の一。野球の伝統的戦略に新しい価値(犠牲バント・盗塁の効力は小さいなど)を与えたほか,選手の過去の成績から将来の成績を予測する手法も開発された。大リーグでは近年,これを実戦に採り入れるチームも登場している。〔アメリカ野球学会(Society for American Baseball Research)の略である SABR と,metrics(測定基準)からの造語〕/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【data】判断や立論のもとになる資料・情報・事実。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:野球で,走者を進塁させるために行うバント。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:日本のプロ野球のセントラル・パシフィック両リーグのその年度の優勝球団が,選手権をかけて争う試合。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:【push bunt】野球で,バットを押し出すようにして軽く球に当てるバント。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:【bastard】野球で,打者がバントの構えから強打すること。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:野球で,投手の投球と同時に走者が走り,打者は必ずその球を打つ攻撃法。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)