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攻撃力を重視する高校野球の背景にあるものは?

強振する打者

近今の甲子園優勝校と上位進出校には共通する傾向がある。それは好打者を上位に並べ、バントを用いない采配だ。つまり、危険を顧みない攻撃に重きを置いた戦い方である。手堅くバントで走者を進め、1点を取っていく高校野球が変わりつつある。

2017年11月21日:用字用語の整理。

選手の精神面を重視した采配

2016年の夏の甲子園を制した作新学院。エースの今井達也投手(現西武)を擁し、強打で積極的に点を取りにいく戦法で頂点へ上り詰めた。チーム打率は4割3部2厘、チーム防御率0・83と抜群の成績を残し、圧倒的な強さであった。

実はその結果の裏側に選手の精神面に配慮した、持てる力を存分に発揮させるチームの方針が存在していたのだ。

精神面を安定させるための強打

打率や防御率など甲子園優勝に値する数字が並ぶ中、特筆すべきは犠打の少なさだ。大会期間中の各チームの犠打数は1試合平均3・85であったが、作新学院は0・83。数字が語るように、犠打を用いなかった試合もあり、高校野球としては異例の少なさである。

作新学院の小針崇宏監督はその理由として、精神面への影響を挙げている。犠打は高校野球においては成功して当たり前と捉えられている作戦であり、その成功率が勝敗をも左右するというのが一般的な考え方であろう。

しかし、小針監督は、その「成功して当たり前」の考え方が、精神的にまだ発展途上である高校球児にとって、犠打を失敗したときに及ぼす精神面への悪影響が大きいと考える。試合において普段の動きができなくなってしまい、思うような結果が出なくなるというのだ。

高校野球において精神面の安定が、選手の力を発揮させる上で重要な点として挙げている。試合中にいかに平常心を保てるか、安定した精神状態でプレーを続けられるかで大きく結果が変わってくるというわけだ。

送りバントにより無用な精神的重圧を与えたくない意図と、積極的に打っていくと明確にチームの特色を打ち出すことで、選手たちが迷いなくプレーに集中できる美点をつくり出している。

持てる力を存分に発揮させる魔法の言葉

優勝した選手たちが試合後に意外かつ象徴的な言葉を残している。まだ明日試合があるんじゃないか甲子園の頂点に上り詰めた選手たちは、総じて重圧から解放された安堵(あんど)感や喜びの言葉を述べることが多い中、作新学院の選手からは「また試合がしたい」という言葉が出ているのだ。これは精神的重圧や緊張感のある中、試合をどれだけ楽しめていたのかをありありと示す一場面ではないだろうか。

小針監督は甲子園での毎試合を通じて死ぬ気で楽しもうぜと選手たちに伝えていたようだ。酷熱の中でのプレーでは、選手たちが本領を発揮できずに焦燥感を覚えたり、周囲の期待や応援が精神的重圧となったりしてしまうこともある。

とにかく楽しむ。楽しめなかったら負け。楽しめたら勝ちと伝え続けることで、緊張や精神的重圧から解放させ、普段通りのプレーに集中できるようにお膳立てをしていたのだ。

野球に関わらずスポーツの世界には、試合中に笑顔を見せることを良しとしない向きが未だにあるが、結果にこだわるからこそ楽しむ。最大限に力を発揮するための精神面を統制できたことが、作新学院優勝の要因の一つであることは間違いない。

相手を圧倒する攻撃的な2番打者

2017年夏の甲子園ベスト4のうち3チームに共通しているのは2番につなぎの打者ではなく、強打ができる好打者を置いているところだ。これまで高校野球では1番が出塁すれば2番はバント。これが最たる手段であったが、ここ最近では初回から強打を選び、得点を目指す傾向が目立つ。実際に2017年の夏の甲子園大会では総本塁打数が68本と過去最高であり、この結果も2番に攻撃的な打者を置く積極的な采配と無関係ではなさそうだ。

2番に好打者を置く「二つの利点」

1番が凡退すると、2番が犠打を主としたつなぎの打者であれば、簡単に二つ目のアウトを献上してしまう危険性がある。しかし、2番に好打者*1を置くことで、再度得点を挙げる機会をつくれるのが利点の一つとして挙げられる。

また、下位打線がつくった好機が1番に回ってきた際、2番に強打者*2が座っているとなると、相手に掛かる精神的重圧はぐんと増す。さらに、2番が出塁すれば、クリーンナップトリオ*3が控えているため大量得点につながりやすい。

今夏の甲子園で象徴的な試合があった。準々決勝の「三本松高校」対「東海大菅生高校」の一戦。東海大菅生の初回の攻撃。1番が凡退するも2番に入った松井惇選手がセンター前ヒットで出塁。続く3番・小玉佳吾選手が本塁打を放ち2点を先制。一気に波に乗った打線はさらに1点を追加し、合計3点を先制する。

6回には8番打者が出塁し、回ってきた好機に2番・松井選手が駄目押しの本塁打で追加点を挙げている。2番が得点を挙げる機会もつくり、得点能力の高い攻撃力を持つ打者にもなる。松井選手はこの試合、5打数3安打3打点1本塁打。9対1と東海大菅生の勝利に大きく貢献している。

一気に大量点を奪い相手をねじ伏せる

今夏の甲子園で埼玉代表として初の優勝校となった花咲徳栄高校。全試合で2桁安打、決勝までの6試合で61得点という圧倒的な打撃力で大会を制した。このチームも2番に好打者を据え、強打を貫くチームであった。

特に特徴的なのは試合を決定づける「大量得点のイニング*4」が多かったことだ。初戦となった開星高校戦で7回に5得点。2回戦の日本航空高校石川戦では初回から5得点を先制し、3回戦の前橋育英高校戦でも初回に4得点。決勝戦の広陵高校戦でも5回と6回を合わせて10得点し、相手を圧倒している。

大量得点のイニングをつくった注目すべき点は2番を打つ千丸剛選手の猛打もさることながら、下位打線の出塁率が高いことだ。そして、上位打線に回って千丸選手が打ち、さらにクリーンナップトリオが得点を重ねる。2番から始まる「強打者カルテット*5」によって破壊力の増した打線が見事にはまったことが挙げられる。

決勝戦でも初回から2点を先制、3回にも2点を追加。広陵も反撃し追い付くも、中盤の大量得点で戦意喪失させた試合展開が「花咲徳栄野球」の集大成であったと言えよう。

まとめ

ここ数年の高校野球はバントを多用しない攻撃的な野球が主流となりつつある。甲子園上位進出校にも同様の傾向があり、結果にも表れている。しかし、「つないでつないで」1点を堅守するチームは、現代の高校野球では勝ち進むのが難しいことを示しているようで、少々の不安を覚えてしまう。

「打って打って」の野球は効果的であり、選手の気質に合う現代的な考え方なのであろう。ただ、それは2番に好打者を据えることができる選手層が厚いチームが大前提となってしまう。つまり、優秀な選手を集めることのできる私立高校の優勢は否めない。

今年の甲子園出場校の8割を私立高校が占める中、この戦い方の変化が高校野球の歪みを一層深めることにならないだろうか。こんな不安が杞憂(きゆう)に終わるような熱い試合が、きっとこれからも展開されると信じつつも、一抹の不安もよぎる。そんな昨今の高校野球の潮流である。

高校野球における「スモールベースボール*6」の挽回への期待は決して小さくないはずだ。

*1:野球で,打撃のうまい者。安打を多く打つ者。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:野球で,長打力のある選手。スラッガー。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:〔和製語 cleanup+trio〕野球で,走者を一掃できるような長打力をもつ三人組の打者。普通,三・四・五番の強打者をいう。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【inning】野球で,両チームが攻撃と守備とを一度ずつ行う区分。インニング。回。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【イタリア quartetto】四重奏。四重唱。また,その楽曲・楽団。クアルテット。クヮルテット。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【small baseball】野球において,機動力,打線の繫(つな)がり,堅実な守備を軸にした試合運びのこと。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)