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日産パオの復刻はいかに?80年代から見たレトロ

斜め前方から見た水色の日産パオ

FIAT 500もさる事ながら、かつて日産が一世を風靡(ふうび)したパオ(PAO)。懐旧の念を起こさせる、負けず劣らずの優れた自動車である。今回はその「パオ」と80年代終盤から見た「レトロ」について迫っていきたい。

2017年8月20日:用字用語の整理。

パオの概要

日産パオのインテリア

現時点で発売しても、新たな愛好者を生み出しそうな、個性的なデザインが光るパオ。パオがこの世に送り出されたのは、1989年のことだ。現行FIAT 500Cと同じようにキャンバストップ*1仕様がある雰囲気は、懐古的で「乗ってみたい」と思わせてくれる1台だ。

パオに前後して日産から発売されたBe-1、フィガロを含めた車両を親しみを込めて「3兄弟」と名付けられた。そのゆえんは、どれもK10と呼ばれる初代のマーチが原型になっているためだ。現行のFIAT 500とPanda(パンダ)の関係と同一である。余談になるが、このマーチのデザインは、初代Pandaと同様でジョルジェット・ジウジアーロ氏が担当している。

パオはマーチが原型になっているが、見分けられるのは、ホイール*2と前席くらいだ。骨格を除き、全てが新造と言っても過言ではないほど作り込まれた車なのである。

当時のパオに対する人々の評価

側面から見た黄色の1989年式・日産マーチ

ここではキャンバストップ仕様を例に挙げる。パオの寸法は、全長3740mm × 全幅1570mm × 全高1480mmである。片や、FIAT 500Cは全長3570mm × 全幅1625mm × 全高1505mmなので、パオの方が少しだけ細長い。

パオは1989年~1990年に製造された。その原型となったマーチは、1982年の登場であるため、パオの骨格も80年代初頭のものである。足回り*3は前輪ストラット、後輪は4リンクコイルの車軸式なので、コンパクトカーの定番の形式だ。

現在から過去を振り返り、80年代初頭の国産車には、古典的な魅力を感じる。しかし、1989年当時の見解は現代と相違し、80年初頭は単に「古くさい」と酷評を受けた。

1982年に初登場のマーチは、結果的に1992年までの10年間製造され続けるロングセラー*4となった。その間、競合のトヨタ・スターレットは刷新が繰り返され、1989年には4代目に移行している。

このような背景もあり、パオが登場した1989年頃には、マーチに対して「時代遅れ」とする悪声が一部で放たれているのも事実であった。しかし、原型がマーチであることすら悟らせないパオのデザインは、人々の目に、この上も無く斬新に映った。そして、社会現象とまで言わしめる「人気者」になったのである。

パオの持つ性能と走り

後方から見た水色の日産パオ

パオが搭載するエンジンはMA10Sという型式の、マーチと同型の987ccエンジンである。これはキャブレター*5式の直列4気筒OHC型で、最高出力52PS*6/6000rpm*7、最大トルク7・6kgm*8/3600rpmの平均的な性能を保持していた。よく言えば「コンパクトカーの基準的エンジン」、悪く言えば「可もなく不可もなく特徴のないエンジン」だった。

1989年登場の4代目スターレットはといえば、1300ccエンジンに電子制御噴射装置が付いたものでは、100PSの最高出力を備えており、動力性能の差は歴然だ。ただし、日産も指をくわえて見ていた訳ではなく、ベース車のマーチにはMA10Sにターボチャージャー*9を搭載したエンジンも用意された。また、後期のマーチは全日本ラリーでも数多く活躍し、その規則に合致させ、わざわざ排気量を930ccまで落としてターボ + スーパーチャージャー*10を付け足した過激な車種も存在したのだ。

閑話休題。パオの走りは外観相応で、おとなしい走りを披露したことになる。サスペンション*11の設定がフランス車のような柔らかい設定にされていたことも、このおとなしさの一因である。トランスミッションギア*12は、当時の需要に応じて5速マニュアル車も用意され、オートマチック*13はこの当時標準的と言える3速オートマチックであった。

まとめ

斜め前方から見た黄色の日産Be-1

1989年はちょうど平成元年で、バブル景気真っただ中の頃である。しかし、この年は、日本車にとって大きな変換点でもあった。スカイラインGT-Rの復活、セルシオやロードスターの新出など、現在においても支持される車種が続々と登場した。これは、日本車が名実ともに世界に通用することを示顕した。

特異な車のことをパイクカーと呼ぶが、当時パオは日産のパイクカー第2弾であった。第1弾は1987年発売の「Be-1」。Be-1は1万台の限定生産で瞬く間に完売し、中古車が新車の2倍にも高騰したほどだ。

購入希望者に供給されなかったBe-1の反省を踏まえ、パオは受注期間が3カ月とし、期間中の契約全てを生産する方式が採用された。結果的には、販売総数は5万台を超えたそうである。

当時を思い返すと、大多数がBe-1の入手をもくろんだはずだ。しかし、上記のように、やすやすと手には入る代物ではなかったのだ。そして、その頃合いに発表されたパオに、われ先にとみんなが飛び付いた。これが率直な感覚ではないだろうか。そして、第3弾のフィガロはターボエンジンの搭載などが話題になったが、パイクカー人気はそこで終焉(しゅうえん)を迎えた。

現代にパオが復活できるかを前向きに考察してみるが、それは微妙だ。現代の車には、衝突安全性能などの制約が付いて回るため、よい意味でぺらぺらで、開口部をでっかく造るのが困難だからだ。実際、パオの車重は720kgであったが、FIAT 500Cや現行のマーチは安全性の向上に比例して重量も1トンにまで増量されている。

現在の安全性能強化の発端は1990年にあった。ドア内部の衝突安全用補強バーが、国産車の輸出仕様車には有り、国内販売車に無いことを、NHKの番組で指摘したのだ。それを契機に人々の安全性能への関心が一気に高まった。その後、グローバル化*14の波が押し寄せ、車も世界的に単一的になった。

内燃機関を持った自動車は、すでに成熟期を迎えて久しい。しかし、パオのような車種には、まだまだ進展の余地を残しており、「車の楽しさ」を改めて痛感させられるのだ。

楽しかった秘密基地の思い出のように、そっと心に「包*15んで」おくのがいいかもしれない。

(出典:日産自動車ホームページ

*1:〔和製語 canvas+top〕屋根がキャンバス地で張られ,折り畳みや取りはずしが可能な自動車。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【wheel】車輪。円輪。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:自動車などで,車輪とそれを取り付ける部分の全体。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:〔和製語 long+seller〕長期間にわたって売れ行きのよい商品。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【carburetor】ガソリン機関に供給する燃料と空気の混合気をつくる装置。燃料の霧化・気化,空気との混合,および燃料・空気の計量を行い,最適の空気と燃料の比を設定する。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【ドイツ Pferdestärke】馬力を表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:〔revolutions per minute〕エンジンやタービンなどの毎分回転数。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:【フランス kilogrammètre】エネルギーまたはトルクの重力単位キログラムメートルを表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:【turbocharger】排ガスを利用してタービンを回し,混合気を強制的にシリンダー内に送り込んで圧力を高める,エンジンの補助装置。出力・トルクを高め,併せて燃費向上に役立つ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:【supercharger】圧縮して密度を高めた空気を内燃機関内に吹き込み,効率を上げる装置。50~100パーセントの出力増が得られる。過給機。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:【suspension】 自動車などで,車輪と車体をつなぎ,路面からの衝撃や振動が車室に伝わるのを防ぐ装置。懸架装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*12:【transmission gear】自動車などの歯車式変速装置。トランスミッション。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*13:【automatic】オートマチック-トランスミッションの略。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*14:世界的規模に広がること。政治・経済・文化などの諸領域の仕組みや制度が,国を越えて地球規模で拡大することをいう。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*15:〔中国語〕モンゴル人など遊牧民が住む,移動生活に便利な饅頭(まんじゆう)形の組み立て式の家。支柱を用いず湾曲した梁(はり)の上をフェルトでおおう。ゲル。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)