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普通のセダンながらFRと高出力が楽しい三菱・ランサーEX

前方から見た白色とだいだい色の三菱・ランサーEX2000

三菱車の印象といえばダカールラリーやWRCでの活躍を思い浮かべる人も少なくないだろう。ランサーエボリューションもいまだ名車として人々の記憶にその姿をとどめているはずだ。今回はWRC連勝への懸け橋ともなった懐かしのランサーEXについてご紹介したい。

2017年10月11日:用字用語の整理。

ランサーEXをはじめとする三菱車とWRC

側方から見た黒色と赤色の三菱・ランサーエボリューションGSRとランサーエボリューションGT

型式で言えばA172・A174・A175となる三菱・ランサーEXの車種は、1979年から1987年まで生産された三菱の主力小型セダン*1であった。ランサーEXはランサーとしては2代目に当たるが、新しい年代からさかのぼっていった方が明解かもしれない。

WRC*2の活躍で、長きにわたり名を馳せたのが「ランサーエボリューション」である。2016年4月にランエボXことランサーエボリューションXをもって販売終了となったことは記憶に新しい。

現在、三菱はラリー活動を停止しているが、ランサーエボリューションは1993年の登場から間もなくして、フィンランド*3人ドライバーのトミ・マキネン氏の活躍を中心に、WRCで幾度も優勝を飾ったのである。

今回ご紹介するランサーEXは見た目はおとなしい普通のセダンだ。しかし、輸出車用2・0Lターボ*4エンジンを搭載して「オオカミと化したマシン*5」は侮れない。なぜなら、1981年から3年間WRCに参戦し、3位に入賞した実績を持つからだ。

ランサーEXは日本国内では1987年まで販売された。その構成はFR*6だ。同年には、「ACTIVE FOUR」と呼ばれる気筒当たり4バルブ*7のエンジン、四輪駆動*8、四輪操舵、四輪独立懸架サスペンション*9、4センサー2チャンネルABS*10を備えた最先端の6代目三菱・ギャランVR-4が登場している。このギャランVR-4もWRC出場を前提に開発された車だ。だが、年代の異なる設計であるランサーEXとギャランVR-4が新車で同年内に混在していたのは、ある意味驚くべきことであった。

ランサーEXと時代背景

側方から見た群青色と赤色の三菱・ランサーエボリューション1600とランサーエボリューション1400

ランサーEXのWRCでの活躍に触れたが、この車は元来至って真面目な家族向きセダンだ。1979年3月の国内発売当初はターボモデルの設定が無く、1・2L、1・4Lの標準的なエンジンのみを搭載していた。1981年になって1・8Lターボエンジン搭載車が登場した。1983年になるとインタークーラーがさらに追加され、高出力を持つ小型FR車として一躍人気を集めることとなった。

FR車は運転技術を習練するにも、運転の楽しさを味わうにも最良の構成であるが、1980年代には次々とFF*11車へ移行していった。トヨタ・クラウンやマークII、日産・セドリックやスカイラインといった2・0L以上のエンジン搭載車は、FR駆動であることが一種の高級感を醸し出していた。

しかし、それ以下の車格ではFFに刷新するのが善かれかしとする時勢風潮もあった。1988年に1・8LのFR車として登場したS13型日産・シルビアもすこぶる人気だった。ただ、価格的に1990年前後の車好きの心強い味方になっていたのはランサーEX、トヨタ・AE86レビン・トレノであった。

ランサーEXの横顔

後方から見た黒色三菱・ランサーEXのシャーシー

ランサーEXの車体寸法は全長4225mm、全幅1610~1620mm、全高1380~1390mmと実に小型である。ランサーエボリューションXが全長4495mm、全幅1810mm、全高1480mmであることと比べると、その小ささが顕著になるだろう。車重もインタークーラー*12付きターボのGTが1030kg、豪華装備のGSRで1070kgという軽さだった。

サスペンションは前輪がマクファーソン・ストラット、後輪が4リンク車軸式となる。この構成は後輪がAE86レビン・トレノ同様にホーシングを車体下に吊るす格好になる。つまり、旧式だと言い換えられる。

ランサーEXには1・6LのOHC4気筒エンジンも用意された。これだと車重は960kgと一層軽量だが、グロス86PS*13/5000rpm*14、13.5kgm*15/3000rpmのエンジンは回転が重たく、力感も乏しいため、スポーツ走行には若干物足りなさを感じる。

日本国内用としては1・8LのOHC4気筒インタークーラー付きターボが最高の装備となるが、これはグロス160PS/5800rpm、22.0kg.m/3500rpmの性能を誇った。ドリフト*16走行をしているのを見掛けることがあったが、AE86レビン・トレノと比べて、いかにも走りにくそうであった。

これはAE86が「4A-GE」なる高回転まで円滑によく回る名機を積んでいたのに対し、ランサーEXはいわゆる「ドッカンターボ」であったことに起因する。急に馬力の盛り上がる特性は直線では大いに有効だが、旋回中にいきなりどんと来ると運転の支配下に置きかねることがままあるのだ。

このような一癖も二癖もあるランサーEXであったが、じゃじゃ馬すら「あばたもえくぼ」で愛着が湧いてしまう。旧式の軽量・小型な車体、十分な出力を持つエンジンの組み合わせにより、「運転している」実感があり、何ものにも代え難い魅力にあふれているのである。

まとめ

三菱・ランサーEXの黒色が基調の内装

現代ではランサーEXのような簡素な小型FR車は皆無となってしまったのが無念至極である。FF車の方がセンタートンネルも無く、エンジンルームも最小化できるため、効率的とするのが製作側の専らの主張だ。だが、小柄なランサーEXに実際乗り込んでみると、現行の車種よりもはるかに広く開放的に感じられ、この主張に懐疑心を抱いてしまう。

果たして18インチなどの大径ホイール、ブレンボ製ブレーキ、300PSを超える出力が「楽しめる車」の最低条件を充足するのだろうか。プロフェッショナル*17ならそうであろう。しかし、ただの家族向けセダンでも、FRと馬力のあるエンジンで楽しいスポーツカーに転生できる。

素人が楽しめる「スポーツカー」の最低条件は、14インチホイールに60扁平タイヤ、150PS程度の出力で十分のはずだ。さらに強化サスペンション、LSD*18、強化ブレーキパッドを組み合わせたら、もはや申し分ない水準まで向上できる。

原点回帰した車造りを渇望している自動車ファンも多いと聞く。車は運転が難しいくらいの方が心を引かれないだろうか。車の安全性能を過信せず、運転技術の向上を図り、事故の防止に力を入れた方がよいと思うのだ。ランサーEXのハンドルを握ったとき、そんな思いがふつふつと湧いてきた。

人工知能(AI)運転の普及に反比例して運転技術の低下が危ぶまれる。車に操作されるようになってしまっては、自動車ではなく自動人になってしまうことを忘れてはいけない。

(出典:三菱自動車工業株式会社

*1:【sedan】自動車の型式の一。四~六人乗りで,座席は前向きに二列。乗用車の中で最も一般的なもの。箱型自動車。サルーン。リムジン。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【World Rally Championship】世界ラリー選手権。世界中のコースを使用して年 10 数戦行う自動車ラリー。1973 年開始。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:【Finland】北ヨーロッパ,バルト海に面する共和国。東はロシア連邦と国境を接する。国土の大半が森林でおおわれ,パルプ・木材・紙を産する世界的な林業国。金属・機械・通信機器などの工業が発達。スウェーデン領・ロシア帝国領を経て1917年独立。住民はフィン人。北部にサーミ(ラップ人)が住む。プロテスタントが多い。公用語はフィンランド語およびスウェーデン語。首都ヘルシンキ。面積33万8千平方キロメートル。人口533万(2008)。正称,フィンランド共和国。フィンランド語の正称,スオミ共和国。〔「芬蘭」とも当てた〕/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【turbo】排ガスを利用してタービンを回し,混合気を強制的にシリンダー内に送り込んで圧力を高める,エンジンの補助装置。出力・トルクを高め,併せて燃費向上に役立つ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【machine】〔マシーンとも〕機械。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【和製語front-engine, rear-drive】自動車の前部にエンジンがあり,動力を後方に導いて後輪を駆動する方式。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7: 【valve】弁。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:自動車で,前後の四つの車輪すべてに駆動力を伝える方式。4WD 。四駆。全輪駆動。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:【suspension】自動車などで,車輪と車体をつなぎ,路面からの衝撃や振動が車室に伝わるのを防ぐ装置。懸架装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:【antilock-brake system】自動車で,ブレーキをかけたとき車輪がロックしないよう,車速と車輪回転速度を検出してブレーキを自動的にコントロールするシステム。車輪と路面間の摩擦力と車輪の回転を確保することで,制動安定性と操縦性を得る。ABS 。アンチスキッド。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:【和製語 front-engine, front-drive】自動車のエンジンの動力が,後輪にではなく前輪に伝わる方式。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*12:【intercooler】中間冷却器。流体を加熱する過程で冷却する装置。特に,気体の連続圧縮過程の冷却装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*13:【ドイツ Pferdestärke】馬力を表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*14:【revolutions per minute】エンジンやタービンなどの毎分回転数。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*15:【フランス kilogrammètre】エネルギーまたはトルクの重力単位キログラムメートルを表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*16:【drift】レーシング-カーなどで,後輪を横すべりさせてカーブを曲がること。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*17:【professional】それを職業として行うさま。専門的。また,その人。専門家。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*18:【limited-slip differential】差動制限装置。自動車の左右の駆動輪が荷重変化や路面変化などにより片方が空転すると残る車輪も回転力を失うことから,双方の回転力や回転速度の差が大き過ぎるときディファレンシャル-ギアの作動を抑制したりロックさせて回転力を確保するもの。ノンスリップ-デフ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)