人生は旅だ

よもやま話に花が咲く

新風を吹き込むチェコのルカEV!新進気鋭の電気自動車?

斜め前方から見た黒色のMWモーターズ・ルカEV

昨今の自動車づくりは環境性能を漸次向上させる宿命を負う。その一つの名答がEV(電気自動車)であり、国産乗用車では日産・リーフに代表される。そんなさなかEVの新たなる方向性をチェコの新型車「ルカEV」が見事に示してくれた。その先駆者をご紹介したい。

ルカEVが生まれた背景

斜め後方から見た充電中の黒色のMWモーターズ・ルカEV

チェコ*1は中央ヨーロッパに位置する国だ。われわれにとって少々なじみが薄いかもしれない。過去にはドイツ*2、ハンガリー*3、ポーランド*4といった国々による支配、1993年のチェコとスロヴァキア*5の分離など、激動の歴史を持つ国家である。

身近なところでは「変身」などを代表作とする作家のフランツ・カフカ*6を輩出した国である。チェコ・ビールも有名だ。ちなみに、チェコ人の年間ビール消費量は断トツ世界一で、日本人の3倍以上の量を飲むそうである。2004年にはEU*7に加盟、以降3年間で大きく経済成長を遂げた。

チェコの自動車製造会社としてはVW(フォルクスワーゲン)傘下のSkoda Auto(シュコダ・オート)。そして、知る人ぞ知る数々の名車を送り出したTatra(タトラ)がある。今回ご紹介する「Luka EV*8(ルカEV)」は新興自動車会社「MW Motors(MWモータース)」による作である。MWモータースにとって、ルカEVが記念すべき市販車第1号となっている。

ルカEVは見ての通り、完璧なクラシックカー*9の外観と内装を併せ持つ。一方、駆動系はエンジンを搭載せず、駆動用モーター4機を各車輪に配した最新型EVとなっている。ルカEVをひもとくにはデザイン*10と駆動系の二つから見ていく必要があろう。次項でその「両輪」を探っていく。

ルカEVのデザイン

側方から見た黒色のタトラ・JK 2500

ルカEVの宣伝文句には「これは参考出品車ではない。市販車である。」とある。EVだけでなく、内燃機関を積んだ乗用車を含めても、ここまで懐旧の念をかき立てるデザインを再現した新型車は希少な存在だ。

まず外装に関してはFIAT 500が先代NUOVA 500の外観的雰囲気を習ったように、ルカEVが参考にした車両がある。その車両とは先ほどご紹介したチェコの自動車会社タトラが1956年に試作車として開発した「JK 2500」である。このJK 2500の車名はデザイナー*11の頭文字を取って命名された。試作車ではあったものの、最も美しい一台と評される向きもある。

ルカEVの外寸は全長4050 × 全幅1620 × 全高1220ミリとなっており、小さくまとまっている。全長3570 × 全幅1625 × 全高1215ミリのFIAT 500と比較してみると、車幅・高さはほぼ同等で、全長を50センチほど伸ばした外寸となっている。

MWモーターズ・ルカEVとFIAT 500の外寸の比較

車名 全長 全幅 全高
ルカEV 4,050mm 1,620mm 1,220mm
FIAT 500 3,570mm 1,625mm 1,215mm

インホイールモーター*12を4輪に配置しており、走行用もしくは充電用のエンジンは搭載しない、生粋のEVである。郷愁を感じさせる外観を具現化したため、ボンネット*13が長くて室内空間は短い伝統的なスポーツカー*14の格好である「ロングノーズ&ショートデッキ」となっている。ボンネットの中身は空っぽと思われたが、もしかしたら搭載位置が不明であるバッテリー*15がここに積まれているのかもしれない。

前席の後端から急角度に流れ落ちる屋根は往年の流麗な雰囲気である。2ドアクーペ*16に分類されるルカEVには後席が設定されず、マツダ・ロードスターのような二人乗りである。このような外観ながら、LED*17を採用したヘッドライト*18とテールライト*19が、最近人気のオートバイ*20の改造思想である「カフェレーサー」にも通ずる至妙な雰囲気を醸し出している。

また、室内に関しても期待を裏切らない。メーター*21はデジタル*22表示だが、旧車らしい雰囲気が十分に備わったナルディ製3スポーク*23ステアリングホイール*24、横基調のインパネ*25が絶佳である。さらに、新型車であることを主張し過ぎずに、静かに訴えかけるかのようにカーボン*26調の装飾が各所に施されている。エアコン*27、ナビ*28、パワーウインドー*29、集中ドアロックが標準装備となるそうだ。

ルカEVの駆動系

MWモーターズ・ルカEVのインストルメント・パネル

ルカEVは2015年に最初の試作車を発表し、EVとして「eCarTec Award 2015」を受賞している。現時点では発売が開始されていない様子である。そのため、全貌については明らかになっていないが、できる限り詳しくご紹介したい。

ルカEVは設計段階から車体が軽量であれば、バッテリーの消費も軽減できることを信念に開発された。シャシー*30には耐久性と強度に優れる6061と呼ばれるアルミ合金を使用。そこに載せられた車体はファイバーグラス(FRP*31)製となっている。軽い素材をふんだんに用いたことで、車両重量は現代の基準に照らし合わせると、非常に軽量な815キロに抑えることができている。

車体を引っ張るのは4機のインホイールモーターである。インホイールモーターは自転車にも使用される場合があるが、車輪回転軸の中心部に装着される形のモーターである。ルカEVでは通常ディスクブレーキ*32ローター*33が装着されている部分の、さらにホイール寄りにモーターが配される。これを装着した車両で該当するのが1971年のアポロ計画*34で使用された月面探査車両がある。国産車だと東京モーターショー2005に参考出品された三菱・ランサーエボリューションMIEVなどがある。

ルカEVは外観に似合わない4輪駆動車になるが、走りは旧車らしい速さとなっているようだ。12・5kW*35のモーター4機から合計50kW / 66HP*36を発生し、最高速度は時速146キロとなる。時速100キロに加速するには9・6秒を要する。ここから逆算できる走行性能はターボ付き軽自動車と同水準くらいだと思われる。しかし、インホイールモーターとFRPボディによって、重心がかなり低くなっていると予想され、意外な安定感とすばしっこい走りを見せてくれるかもしれない。

EVで気になるのは航続距離や充電時間である。ルカEVの開発者は「あと10年もすれば1000キロ走れるようになるだろう」と述べている。しかし、現状はそこまでは難しく、航続距離は300キロであるという。

ルカEVのバッテリー容量は21・9kWh*37である。実際の航続距離の短さで不評を買った初期型の日産・リーフは24kWhのバッテリー容量だった。ここだけをかいつまんで比較すると若干不安が先行するかもしれない。しかし、リーフは80kWと高出力な上、車両重量もルカEVの2倍近い1520キロあったので、バッテリー消費は間違いなくリーフの方が大きいだろう。ルカEVは軽量化に重点が置かれているため、真価の見せ所といえる。

充電時間に関してはチェコの220ボルト*38家庭電源では9時間となる。急速充電機を使用すると、2時間で充電が完了する。また、60分で80%を充電できるシステム*39を現在開発中とのことである。

まとめ

斜め後方から見た黒色のMWモーターズ・ルカEV

今後EVが世界的にますます浸透していくことは揺るぎない事実だろう。現状では先に触れたようにバッテリー容量を十分に得ることができないため、併せて内燃機関を走行用もしくは充電用に搭載し、補っているのがハイブリッドカー*40だといえる。

EV技術は今もって発展途上であり、日進月歩の世界だ。人が過去を懐かしく振り返るのは余裕を持ってからと相場が決まっているが、この発展の真っ最中に「旧懐の情」を引き連れてきたルカEVは希世の存在だ。

個人的意見にすぎないが、昨今の新型車の大型化や押し出し感の強さはどうも面白みに欠ける。世界的に大型化の一途をたどる乗用車に対し、「お前もか」と落胆の色を隠せなかった。

ところが、ルカEVによって意外なことに気付かされたのである。たとえEVであっても、たたずまいにが魅力的ならば、十分に心がわくわくと胸を躍らされるものだったのだ。特にこの車の場合、小さな外寸とロングノーズ&ショートデッキの形状に目を奪われる。そして、細部からも本物感が漂うから精妙である。

設計にしても「軽量化第一」の前提で先進技術を搭載していくのは実に的を射ている。見飽きた感のある「先進技術なのに車体の肥大化と重量化」のような無駄がみじんもないのである。

MWモータースの第2弾はルカEVとは180度正反対のガソリンエンジン搭載レーシングカー*41になるそうだ。第3弾はどのような車をつくってくれるか分からないが、期待を持たせる新規自動車会社なのは間違いない。

ルカEVのような車が起爆剤となり、未来の乗用車の行く末を左右してくれたらと切に願った次第である。この車の新車価格はチェコ西部の都市プルゼニ渡しで、税金抜きの3万ユーロ(約391万円/2018年5月7日現在)からとなっている。

他の追随を許さない独自路線の車だが、お値段の方も少々「軽量化」が進めばといったところだろうか。

(出典:MW MotorsFiat Chrysler Automobiles

*1:【Czech】中部ヨーロッパに位置する共和国。ボヘミアとモラヴィアの両地方から成る。住民は主に西スラヴ系のチェコ人。1939年スロヴァキアと分離してドイツに合併、45年再びスロヴァキアと合併。93年独立。2004年EU加盟。面積7万9000平方キロメートル。人口1043万7千(2011)。首都プラハ。狭義にはボヘミアを指す。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:【Duits(land)(オランダ)・独逸】(Deutschland(ドイツ))中部ヨーロッパのゲルマン民族を中心とする国家。古代にはゲルマニアと称した。中世、神聖ローマ帝国の一部をなしたが、封建諸侯が割拠。16世紀以降、宗教改革・農民戦争・三十年戦争・ナポレオン軍侵入などを経て国民国家の形成に向かい、1871年プロイセンを盟主とするドイツ帝国が成立。のち第一次大戦に敗れて(ワイマール)共和国になったが、1933年ナチスが独裁政権を樹立して侵略政策を強行、第二次大戦を誘発、45年降伏、49年東西に分裂。90年ドイツ連邦共和国として統一。言語はドイツ語で、プロテスタントがカトリックよりやや多い。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【Hungary・洪牙利・匈牙利】中部ヨーロッパに位置する共和国。ドナウ川中流のハンガリー盆地を中心とし、面積9万3000平方キロメートル。人口993万8千(2011)。9世紀末マジャール人が定着、11世紀初め王国を建設。1867年オーストリア‐ハンガリー帝国、1918年共和国、20年再び王制、46年共和制。2004年EU加盟。農畜産業と食品・化学工業が発展。首都ブダペスト。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【Poland・波蘭】中部ヨーロッパの共和国。9世紀には王国を成し、中世後期には勢威を振るったが、近世初期から衰え、3次にわたってロシア・オーストリア・プロイセン3国に分割され、1815年ロシア領に編入、1918年独立。39年第二次大戦の当初ドイツ軍が侵入、ソ連軍も分割占領した。45年ソ連軍によって解放され、独立を回復、52年人民共和国となる。89年の東欧民主化のなかで、非共産勢力による政権が発足。2004年EU加盟。工業・農業・畜産業が盛んで、石炭を始めとする鉱物資源も豊富。面積31万2700平方キロメートル。人口3804万5千(2011)。そのほとんどは西スラヴ系ポーランド人で、カトリック教徒が圧倒的に多い。首都ワルシャワ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:【Slovakia】ヨーロッパ中部の共和国。西スラヴ系のスロヴァキア人が主。1939年チェコから分離、ドイツの保護国となるが、45年、再びチェコと合併。93年独立。2004年EU加盟。面積4万9000平方キロメートル。人口539万7千(2011)。首都ブラチスラヴァ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【Franz Kafka】プラハ生れのドイツ語による小説家。実存主義文学の先駆者で、第二次大戦後の文学に大きな影響を及ぼした。小説「変身」「審判」「城」「アメリカ」など。(1883~1924)/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:(European Union)欧州連合。ECの経済統合の深化・拡大に加え、外交・安全保障・司法などの面で統合を進めるための組織体。1993年、マーストリヒト条約により成立。欧州理事会・欧州委員会・欧州議会・欧州司法裁判所などをもつ。原加盟国はアイルランド・イギリス・イタリア・オランダ・ギリシア・スペイン・デンマーク・ドイツ・フランス・ベルギー・ポルトガル・ルクセンブルクの12カ国。加盟28カ国(2017)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【electric vehicle】 電気自動車。電池をエネルギー源とする車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:【classic car】古い型の自動車。特に、古典的名車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:【design】意匠計画。製品の材質・機能および美的造形性などの諸要素と、技術・生産・消費面からの各種の要求を検討・調整する総合的造形計画。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:【designer】衣服や器物・建築物などのデザインの考案を職業とする人。図案家。設計者。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*12:【in wheel motor】自動車などの車輪に内蔵されたモーター。駆動機構がコンパクトになるため,自由な車体設計が可能になる。電気自動車などへの応用が期待されている。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*13:【bonnet】自動車の前部の機関部のおおい。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*14:【sports car】運転を楽しむために作られた娯楽用乗用車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*15:【battery】蓄電池。電槽。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*16:【coupé(フランス)】二人乗り4輪の箱馬車。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*17:(light emitting diode)pn接合部に電流を流すと発光する特殊な半導体を利用した素子。材料によって決まる波長の光を放出し、紫外・可視・赤外領域用がある。発光ダイオード。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*18:【headlight】電車・自動車・艦船などの前部につけて前方を照らす明り。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:【taillight】自動車・電車などの後尾につける赤色灯。尾灯。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*20:(和製語)発動機をそなえた二輪車。自動二輪車。単車。バイク。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*21:【metre; meter】計量器。計器。特に、タクシーの自動料金表示器や、電気・ガスなどの自動計量器。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*22:【digital】 ある量またはデータを、有限桁の数字列(例えば2進数)として表現すること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*23:【spoke】車輪の軸受からリムに向かって放射状に出ている細長い棒。輻(や)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*24:【steering wheel】自動車のハンドル。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*25:〔instrument panel から〕自動車などで,運転席に設けた計器盤。多く,計器や操作スイッチを並べた前面のパッド入りパネル全体をさす。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*26:【carbon】炭素。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*27:「エア‐コンディショナー」「エア‐コンディショニング」の略。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*28:ナビゲーター・ナビゲーションの略。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*29:【power window】自動車の窓ガラスをスイッチにより自動的に開閉する装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*30:【chassis】〔シャーシ・シャーシーとも〕 自動車・電車などの車台。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*31:【fiberglass reinforced plastic】繊維強化プラスチック。ガラス繊維や炭素繊維などを補強材として埋め込んだ合成樹脂複合材料。軽くて機械的強度・耐食性・成形性にすぐれる。小型船舶の船体,航空機の機材,浴槽・波板・保安帽などに用いる。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*32:【disc brake】 ブレーキ装置の一つ。車軸に固定した摩擦円板をブレーキ片で押さえ、制動する。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*33:【rotor】回転機の回転部。回転子。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*34:アメリカの一連の月探査計画。1961年に計画を決定、69年には宇宙船アポロ11号が人類を初めて月に送った。72年のアポロ17号で終了。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*35:【kilowatt】仕事率・電力の単位キロワットを表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*36:【horsepower】馬力。㏋とも書く。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*37:【kilowatt-hour】仕事量・電力量の単位キロワット時を表す記号。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*38:【volt】(ヴォルタの名に因む)電圧・電位・起電力の単位。国際単位系の組立単位。1アンペアの電流が流れている導線で消費される電力が1ワットであるときの、導線両端間の電圧。記号V/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*39:【system】複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体。組織。系統。仕組み。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*40:【hybrid car】ハイブリッド‐エンジンにより走行する自動車。効率の良い回転数域だけで内燃機関を利用したり、回生ブレーキで得た電力を電気モーターで利用したりできるので燃費が良い。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*41:【racing car】競走用自動車。レーサー。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)