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大リーグの「フライボール革命」に起きた次なる進化とは?

ナイターをしている野球場の鳥目絵

ゴロを転がすよりもフライを上げる方が打率が上がる。これまでの野球の常識が引っ繰り返され、大リーグでは年間歴代最多の本塁打数が記録されている。日本球界でもフライボール革命が注目されつつあるが、大リーグでは早くも一歩先に進んでいるから注目だ。

フライボール革命の第1弾記事はこちら
野球の常識が覆される!フライボール革命とは?

2018年4月17日:用字用語の整理。

フライボール革命がもたらす未来

大リーグ*1では昨季、それまでの年間本塁打数を400本以上も上回る6105本を記録した。

打球角度が30度前後、打球速度が158キロ以上の「バレルゾーン」で捉えられた打球の8割がヒット*2かホームラン*3になっているデータ*4から、「ゴロ*5よりもフライ*6を打つべし」の理論から生まれた「フライボール革命」。

チーム*7で積極的に導入したヒューストン・アストロズが圧倒的な打撃でワールドシリーズ*8を制したことで、一躍注目された。

日本球界でも、日本代表のほとんどのバッター*9が投球の下からバット*10を振り出す、いわゆる「アッパー*11スイング*12」を意識している。最近では福岡ソフトバンクホークスの柳田悠岐選手がフライを上げることで不振から脱却し、好成績を残した例が挙げられる。

しかし、チームを挙げて取り組んではおらず、個々人の判断で取り入れる選手が増えてきているのが日本球界での現状であろう。

データに対する日米の意識格差

フライボール革命の全盛期を迎えつつある大リーグと日本球界の間には、野球のデータに対する意識や取り組み方に大きな隔たりがある。

そもそも大リーグのフライボール革命は徹底的なデータ分析なくして成立しなかったはずだ。その変遷をさかのぼると、まず投球の速度や軌道を追跡するシステム*13を2008年までに全球場に導入した。

続いて、投球の回転数や打球の打ち出しの角度、推定飛距離などを算出する「トラックマン」、専用カメラ*14で特定の選手を追跡する「トラキャブ」を組み合わせた「スタッドキャスト」と名付けられたシステムを2015年までに全球場に導入した。

これらのシステムにより、バッターの打球方向が徹底的に分析され、データに基づく極端な守備シフト*15が引かれるようになった。そのため、ゴロもしくは痛烈なライナー*16を打ったとしても、内野の間を抜くことが難しくなってきた。

それならば、「ゴロではなくフライを打て」の発想がフライボール革命の原点だ。こちらもデータから打球の角度に着目し、打球角度が30度前後、打球速度が158キロ以上の「バレルゾーン」を発見し、そのゾーン*17に当てはまる打球は高確率でヒットかホームランになっている理論を確立した。

このフライボール革命の申し子と呼ばれているのが、ニューヨーク・ヤンキースのアーロン・ジャッジ選手だ。バレルゾーンで捉えた打球は大リーグで一番の87本にも上る。52本塁打を放ち、見事ホームラン王に輝いている。

それと並行して、ピッチャー*18の優劣を測る一つの基準として「投球の回転数」が注目されるようになった。大リーグではストレート*19であれば分速2100回転が平均値であり、これを超えれば良質で「伸びのあるボール」になる。過日読売ジャイアンツに復帰した上原浩治投手は平均分速2700回転といわれている。140キロ前後のストレートで大リーガー*20から、ばたばた三振を奪えたのもうなずける。どうやら回転数の多さと密接な関係があったようだ。

また、単純に球質を測る基準だけではない。投球フォーム*21を改良する際にも、成果がボールの回転数として数字で表れるため、効率的に実行できる利点もあるようだ。

こうやって比較すると、日本球界はデータシステムの導入や取り組みが、後れを取っているのを痛感させられる。大リーグのような移り変わりを経験しておらず、データを根拠にした思い切った守備シフトもあまり目にしない。そのような土壌にもかかわらず、突如として「ゴロを打つな」とフライボール革命を持ち込もうとしても、すんなり定着しないのは当然だ。

一歩先行く大リーグのフライボール革命

昨年はヒューストン・アストロズがチームを挙げてフライボール革命に取り組み、他チームを勝る打撃でチャンピオンリング*22を手にした。ダルビッシュ有投手や前田健太投手といった日本が誇る双璧が、軽々と手痛い一発を浴びたのは衝撃ですらあった。

実は全盛期を迎えつつあるフライボール革命には続きがあり、次なる戦略が待ち受けている。データによるストライクゾーン*23の球種別被本塁打率を調査すると、カーブ*24が1・3%と最も低いことが判明した。つまり、フライボール革命のアッパースイングに対抗するには、カーブが有効なのである。それに気づいたのは他ならず、フライボール革命を実践しているアストロズ自身なのだ。

昨年のアメリカンリーグ*25優勝決定シリーズ第7戦で、アストロズのランス・マッカラーズ・ジュニア投手が、なんとカーブを24球も続けたデータが残っている。さらに、球団はカーブの回転数に注目し、回転数が多く「切れのいい」ピッチャーを集めているのだ。事実アストロズ投手陣のカーブの回転数は、大リーグで随一の分速2155回転となっている。

外野手の守備力も数値化

フライボール革命によりフライが増えたことで、外野手の重要性が増すことは自明の理だ。大リーグでは打球の滞空時間と野手の移動距離から、捕球確率(OAA = Outs Above Average)も算出しているようだ。

普通の選手ならダイビングキャッチ*26するなどしてファインプレー*27に見えたとしても、守備範囲の広いうまい選手なら難なくキャッチ*28することもあるはずだ。しかし、捕球確率を見ることで、こうした視覚的情報に左右されることはない。実際にどれくらいのアウト*29を取れたのか、その選手のプレーの実力を客観的に判断することができるのだ。ここまで細分化されたデータをよりどころに、選手獲得を画策しているのだからあっぱれである。

2017年の大リーグ外野手の捕球確率(OAA)の順位では、ミネソタ・ツインズのバイロン・バクストン選手が1位。ちなみに、イチロー選手は78位となっている。ただし、この指標は守備機会が多い選手ほど好成績になる傾向のため、代打での出場が中心のイチロー選手は不利である。つまり、これがイチロー選手の守備力の尺度とは言い難く、あくまで一つの参考指標とすべきだろう。

いずれにせよ、フライボール革命に引っ張られて外野手の重要性も増している。もしかすると今後は選手の打撃成績に加え、捕球確率(OAA)といった外野手の能力も同等に評価される時代がやって来るかもしれない。打撃成績の優秀な選手と捕球確率(OAA)の高い選手とのトレード*30など、これまでの野球の常識が打ち破られる日は遠くなさそうだ。

まとめ

大リーグではデータシステムがしっかり確立している。そのため、データに裏付けられた野球が以下のように刻一刻と進化し続けている。

進化を遂げる大リーグのデータ野球

  1. 大胆な守備シフト
  2. フライボール革命
  3. 被本塁打率の低いカーブ
  4. 回転数にも着目したカープピッチャーの獲得
  5. 外野手の守備力を重視

まだまだ止まるところを知らない野球の進化であるが、あえて未来を予想してみたい。これだけフライが重視されれば、いずれは内野ゴロ・ライナーが有効になってくるのではないだろうか。長打を警戒してカーブが多投されるのなら、なおのことである。フライに備えて後退した内野シフト、一面的な守備シフトの裏をかく打撃にいずれは回帰すると予測する。

それこそは日本野球の強みであり、フライボール革命の隆盛が、そのまま日米野球の実力差につながるとは思えないのだ。そんなに「野球」が単純なものではないことは野球ファン*31の誰しもが知るところではないだろうか。その点にも注目しながら、フライボール革命の行方を見守っていきたい。

しまいには試合中に選手があくびをした数もデータ化されるかもしれない。

*1:(major league)アメリカ二大プロ野球リーグのこと。アメリカン‐リーグとナショナル‐リーグで構成。メジャー‐リーグ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*2:【hit】野球で、安打。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*3:【home run】野球で、本塁打のこと。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*4:【data】立論・計算の基礎となる、既知のあるいは認容された事実・数値。資料。与件。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*5:(グラウンダーの略訛か)野球で、地上を転がる打球。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*6:【fly】野球で、打者が打ち上げたボール。飛球。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*7:【team】二組以上に分かれて行う競技のそれぞれの組。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*8:【World Series】アメリカのプロ野球で、アメリカン‐リーグとナショナル‐リーグのそれぞれの優勝チームの間で争われる選手権試合。1903年から始まる。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*9:【batter】野球で、打者(だしゃ)。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*10:【bat】野球・ソフトボール・クリケットなどで、球を打つ棒。また、卓球のラケット。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*11:【upper】上の方の。上位の。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*12:【swing】野球でバットを、ゴルフでクラブを振ること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*13:【system】複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体。組織。系統。仕組み。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*14:【camera】針穴・レンズ・反射鏡などの光学系を用いて、被写体の映像を暗箱内のすりガラス・紙・感光材料・撮像素子などの面上に結ばせる装置。カメラ‐オブスキュラ・写真機・撮影機・テレビ‐カメラ・ビデオ‐カメラ・デジタル‐カメラなど。キャメラ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*15:【shift】球技・ボクシングなどで、選手が位置を変えること。例えば野球では、打者に応じて守備位置を移動する。また、そのような特殊な態勢。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*16:【liner】野球で、低い弾道で、一直線に飛ぶ強い打球。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*17:【zone】地帯。区域。区画。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*18:【pitcher】野球で、打者にボールを投げる人。投手。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*19:【straight】野球で、カーブなどの変化球に対して直球。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*20:アメリカ大リーグに所属している野球選手。メジャー‐リーガー。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*21:【form】運動の動きや姿勢の型。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*22:〔championship ring〕スポーツのポストシーズン-ゲームで優勝したチームが,その記念として制作し選手に授与する指輪。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*23:【strike zone】野球で,本塁上の空間のうち,打者が自然な打撃姿勢をとったときの,腋(わき)の下から膝頭の上部までの範囲。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*24:【curve】野球で、投手の投球の一種。手首を内側にひねって順回転を加えて曲げる代表的な変化球。外角へ曲がる場合をアウトカーブ、内角に曲がる場合をインカーブという。縦に曲がり落ちる場合は古く、ドロップといった。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*25:【American League】アメリカのプロ野球二大リーグの一つ。1900年に結成。略称ア‐リーグ。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*26:【diving catch】野球で,打者の打った球を体を投げ出して捕らえること。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*27:【fine play】美技。妙技。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*28:【catch】球技で、球を受けとること。捕球。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*29:【out】野球で、打者や走者が打席・塁にいる資格を失うこと。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*30:【trade】プロ野球などで、チームが選手を移籍・交換すること。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)

*31:【fan(アメリカ)】スポーツ・演劇・映画・音楽などで、ある分野・団体・個人をひいきにする人。/出典:広辞苑 第七版(岩波書店 2018年)