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FIAT 500に搭載のデュアロジックに漂う玄人っぽさ

斜め後方から見た白色のFIAT 500

現行のFIAT 500に搭載されるトランスミッションは、全車オートマチックの設定である。一にデザイン、二にツインエアと国産車にはない特徴を持つFIAT 500だ。その三番目の特徴とも言える「デュアロジックトランスミッション」にスポットライトを当ててみたい。

FIAT 500の日本仕様は基本的に全車がデュアロジック

濃淡灰色のFIAT 500のシフトレバー

FIAT(フィアット)500のトランスミッション*1形式は「AT*2モード*3付き5速シーケンシャル*4(デュアロジック)」と小難しそうな名前である。通常販売される日本向けFIAT 500には現在全車が、このトランスミッションを搭載している。

デュアロジックを簡単に説明すると、5速マニュアル*5ミッション*6のクラッチ*7操作を自動化したものだ。つまり、オートマチック車*8であり、オートマ*9限定免許でも運転が可能である。ペダル*10配置も国産乗用車と同じく2ペダル式であり、基本的な運転操作は通常のオートマ車と変わらない。異なる点はシフトパターン*11なのだが、これについては後述したい。

FIAT 500は2008年3月に日本市場に投入された。当初はその投入を記念する特別仕様車として、1・2Lエンジンにデュアロジックを搭載した「FIAT 500 1・2 8V ラウンジ」が登場した。同年5月には、より走行性能を高めた仕様として「FIAT 500 1・4 16Vポップ」を投入した。

2011年3月にはFIAT 500をより個性的なものに昇華させる立役者となった、0・9Lツインエアを投入。これによって走行性能を高めた仕様は1・4Lから0・9Lツインエアに置き換わっていくことになる。

現在国内向けに販売されているFIAT 500は1・2Lと0・9Lのツインエアのエンジンを搭載した仕様である。どれもデュアロジック搭載のオートマ車だが、時折マニュアル車も限定車扱いで登場している。簡単に日本市場向けFIAT 500の経緯を追ってみたが、どの年式のFIAT 500もデュアロジックの存在と切り離せないものなのである。

デュアロジックの仕組み

FIAT 500のデュアロ・ロジック・ユニット

デュアロジックを解説する海外の記事によると、デュアロジックとは「クラッチ操作を省いたマニュアルトランスミッションで、オートマとマニュアルを選択できるもの」とある。普通のトルクコンバーター*12式やCVT*13式オートマは、その構造からして専用設計である。しかし、デュアロジックのボンネット*14内に収まっているのは紛れもなく5速マニュアルミッションである。

エンジンからクランク*15シャフト*16に回転力として取り出された出力はミッションへとつながる。エンジン出力とミッションが直結だと、停車するたびにエンジンを停止しないといけなくなるので、エンジンとミッションを切り離すクラッチが設置される。クラッチ操作を運転手が行なうマニュアル車はクラッチの適切な操作とギア*17の適切な選択が不可欠である。

FIAT 500が搭載するデュアロジックは、これらの技術を要するクラッチ操作とギア選択をTCU(トランスミッション・コントロール*18・ユニット*19)が考慮して自動で行なってくれるものなのだ。変速を行なう判断は速度やアクセル開度。また、エンジン回転数やシフトレバーの位置など、各種の情報を検出した上で実行される。TCUはマニュアル車の「運転手の五感」と「頭脳」に該当する部分だ。

デュアロジックは通常の5速マニュアルミッションの下部に、実際にギアをシフトするためのアクチュエーター*20、それを動かす動力になる電動ポンプ*21、オイル*22タンク*23、クラッチを押すためのロッド*24などが追加装着されている。これらはマニュアル車ならば「運転手の左手」と「左足」の代役ということになる。

デュアロジックの長所と短所

FIAT 500を運転中の女性

デュアロジック車の長所を一言で述べれば「操作が楽になる」ことである。通常のオートマ車の指向と同様である。デュアロジックと通常のオートマ車との差別化について、FIAT社は「マニュアルミッションの持つ軽量、耐久性、信頼性、高い動力伝達性を保った上での操作性の快適化」と説明している。

トルクコンバーター式オートマにはロックアップ機構がある。一定速度になるとこのロックアップが働くが、これはエンジンとトランスミッションが直結している状態のことである。これが作動していないときは粘度の高いオイル(ATフルイド*25)を介して動力を伝達しているため、損失が出ている。その点、デュアロジックは微速での前進・後退以外は常にロックアップ状態と同じである。FIAT社の「高い動力伝達性」は、このことを指している。デュアロジックの構造は5速マニュアルミッションと同じなので整備性も良い。だから、マニュアル車比率の高い欧州や新興国でも非常に有効であろう。

一方、デュアロジックの短所であるが、一つには独特な操作方法かもしれない。通常のオートマ車と違って「P(パーキング)*26」がない。駐車時には1速かバックにギアを入れる必要がある。ここで大切なのはニュートラル*27でエンジンを切るとアラーム*28が鳴る。それを嫌って1速やバックに入れたままエンジンを切るとどうなるのだろうか。実はアラームが鳴らないにもかかわらずデュアロジックを痛めてしまっているのだ。

では、駐車時にはどうすれば良いか。これはアラームを無視してニュートラルでエンジン停止、パーキングブレーキを引いて駐車が最良のようである。ただし、坂道などではパーキングブレーキを忘れると、駐車中に車が勝手に滑り出すので要注意だ。

加えて、乗り込んでから発進するまでにも「儀式」がある。乗り込むためにドアを開けた際、デュアロジックのオイルポンプが圧力を上げるために6秒ほど作動する。オイルポンプの音が止まったらエンジン始動。そして、直ちにギアを入れるのもデュアロジックに悪いため、始動直後の数分間は「暖機運転」をした方が良いとある。

お気付きかもしれないが、デュアロジックの第二の欠点は耐久性と信頼性にありそうだ。長所でも耐久性と信頼性を述べたが、これは5速マニュアルミッション本体を指している。デュアロジック自体はミッション本体と完全に肩を並べるまでには至らず、耐久性と信頼性に若干の欠点が見て取れる。

まとめ

真正面から見た赤色のFIAT 500

ここまでFIAT 500に搭載のデュアロジックに関して述べてきた。デュアロジックの構造は5速マニュアルミッションなので、当然のことながらクラッチも摩耗する。それについてもTCUに対応が求められる。電動ポンプの不具合やオイルシール*29の摩耗などにより、アラームが正常に機能しなくなることがある。特に5万kmを超えた個体で不具合が出てくることが多いようだ。

いろいろと不安要素を列挙してしまったかもしれない。しかし、FIAT 500のデュアロジックには日本車が失いつつある「機械との対話する楽しさ」を感じられるのだ。FIAT 500のデュアロジックを所有するならば、ある程度その構造も理解しておくのが賢明だろう。機械の特性や癖を理解した上でこそ、いたわりつつ元気よく走らせることができる。そんな姿勢は車本来の楽しみ方に通ずるはずだ。

どうやらデュアロジックは、その習性さえ飲み込んでしまえば、信頼性・耐久性も問題なさそうだ。日進月歩の自動車技術であるから、さらなる進歩にも期待ができそうである。

マニュアル車に乗っていると、どこか車に熟達している感覚になり、自尊心が刺激されることがある。FIAT 500のデュアロジックはマニュアル車にこそ敵わないが、それに劣らず玄人っぽさがにじみ出ている。

廃れてしまった光景だが、暖機運転をしている間に一服つける。そんな渋い場面が今時も似合う新車は、きっとFIAT 500をおいて他にないだろう。

ちなみに、私はたばこを吸えないのだが。

(出典:Fiat Chrysler Automobiles

*1:【transmission】自動車などの歯車式変速装置。トランスミッション。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:【automatic transmission】自動車の自動変速装置。エンジン回転数,アクセル開度,車速によって自動的に変速装置の変速段数が選択される。ノー-クラッチ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:【mode】様式。形式。方法。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【sequential】連続して起こること。逐次。順次。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【manual】自動車で,変速装置が手動のもの。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【mission】トランスミッションの略。変速装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*7:【clutch】自動車などのクラッチを操作するペダル。踏み込むとクラッチは切れる。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*8:オートマチック-トランスミッションを装備した自動車。オートマ車。AT 車。ノークラッチ車。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*9:オートマチックの略。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*10:【pedal】自転車・オルガン・ピアノ・ミシンなどについている踏み板。ペタル。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*11:MTにおいて、シフトレバーを操作するときに各段位の位置を示したもので、例えば3速ならばHパターンとなる。 5速であれば、Hの右隣に線を1本追加したパターンが一般的。 競技用ではHの左下に1速を配したパターンもある。/出典:大車林(三栄書房 2004年)

*12:【torque converter】自動車の自動変速機の一。オイルを満たした容器内で,向かい合ったタービンが流体の力で回転することにより動力を伝える装置。オートマチック車で使われる。油圧式回転力変換機。トルコン。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*13:【continuously variable transmission】無段変速機。ギアを用いずに無段階で車のスピードを変えることができる。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*14:【bonnet】自動車の前部の,エンジンを収容する部分のカバー。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*15:【crank】往復運動を回転運動に,また回転運動を往復運動に変換するもの。内燃機関などの往復ピストン機械の基本的メカニズム。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*16:【shaft】動力を伝達するための回転軸。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*17:【gear】歯車。また,歯車を組み合わせた装置。ギヤ。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*18:【control】制御すること。統制すること。管理。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*19:【unit】規格化された部品。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*20:【actuator】油圧や電動モーターによって,エネルギーを並進または回転運動に変換する駆動装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*21:【オランダ pomp】圧力の作用で,液体や気体を吸い上げたり送ったりする機械。喞筒(そくとう)。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*22:【oil】油。食用・燃料用・潤滑用など広く「あぶら」の意で用いられる。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*23:【tank】液体や気体を入れる容器。水槽・油槽・ガス槽など。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)。

*24:【rod】棒。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)。

*25:【fluid】流動性の。液状の。フリュイド。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*26: 自動変速装置を備えた自動車で,変速装置のレバーが駐車(park)の位置にあることを示す記号( P )。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*27:【neutral】自動車のギアなどで,エンジンの動力が車輪に伝達されない状態。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*28:【alarm】警報装置。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*29:【seal】封印。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)