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野球のセオリーを覆す!奇策が織り成すドラマとは?

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天王山となり得る局面において、敵軍の意表を突く奇策がある。時としてその試合の潮目となり、優劣を劇的に変化させる。今回は負けたら終わりの舞台である高校野球夏の大会に着目する。背水の陣で臨む采配の数々を振り返っていきたい。

2017年9月20日:用字用語の整理。

優勝候補・大阪桐蔭を沈めた戦術

平成28年7月21日、夏の甲子園予選・大阪大会。優勝候補筆頭の大阪桐蔭は、3回戦で関大北陽と対戦した。関大北陽は打撃で優位に立つ大阪桐蔭に対し、外野手が常にフェンス近くまで後退し、内野手も一塁手と三塁手はベース後方、二塁手も三塁手も外野の芝生に入って守るなど徹底した「長打警戒シフト」を敷いた。

対する大阪桐蔭は真っ向勝負でそのシフトに挑む。セーフティーバント*1を多用することはなく、打ちに出る。

関大北陽・清水寛投手はさらにわなを仕掛ける。春の大会で13対2と大敗した経験を生かし、ストレートにめっぽう強い大阪桐蔭打線に対し、100キロ前後のスローカーブを多投する。極端なシフトと遅い球に打者は力んでしまい、本来の打撃が発揮できない。バットで捉えても、外野手の頭を越すはずの打球がグラブに収まり、会心の当たりも野手の正面を突いてしまう。それがますます焦燥感につながり、打撃を狂わせていく。

大阪桐蔭の27アウトのうち、外野フライが14個。得点はオーバーフェンス*2の1点のみに終わった。その結果、2対1で関大北陽が勝利した。過去データを有効活用した、徹底した後退シフトと打者の心理を突いた緩いボール主体の配球が組み合わさった絶妙の采配であった。

「内野5人制」でカット打法封じの攻撃的な守備体系

平成25年8月17日、夏の選手権大会3回戦・花巻東対済美。この大会の話題をさらった花巻東・千葉翔太選手は、ストライクゾーンへの投球をファウルにする、徹底した「カット打法」で粘り、相手投手に球数を投げさせて出塁を狙っていた。

済美・上甲正典監督はこの戦略に対して、中堅手を三遊間*3に守らせ、右翼手を中堅手に布陣させ、ライトは空っぽにする「内野5人シフト」で対抗する。

千葉選手はカット打法をちらつかせながらも、積極的に打ちに出る。後に東北楽天ゴールデンイーグルスに入団する済美・安楽智大投手から、シフトの裏をかく無人のライトへ三塁打を放つなど、3安打の活躍を見せる。

試合は延長10回の末、千葉選手の花巻東が勝利した。安楽投手の球威と内野5人シフトで抑え込む計算であった。しかし、千葉選手は中学校から北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手とチームメートであり、練習を通じて直球を得意にしていたことは上甲監督の誤算だったかもしれない。この試合での、彼の唯一の三振がカーブだったのは興味深いところだ。

常総学院・木内幸男監督の究極の魔法

昭和59年8月21日、夏の選手権大会決勝・取手二高対PL学園。取手二高が4対3でリードしていた9回裏、取手二高のエース*4・石田文樹投手は先頭打者にソロアーチ*5を浴び、同点に追い付かれる。動揺を隠せない石田投手は、続く打者にも死球を与えサヨナラの走者を許してしまう。

木内監督は伝令を出し、石田投手をライトに。この土壇場でエースの交代を断行したのだ。石田投手は意気消沈し、うな垂れて守備位置であるライトへとぼとぼと歩く。投手交代をして迎える次打者は、痛恨のバント失敗。PL学園はせっかく来かけた流れをつかみ損ねてしまう。

この時、木内監督のまなざしはライトを守るエースの姿をじっと見つめいていた。そして、敵チームのバント失敗を小躍りして喜んでいるエースの表情を見逃さなかった。生気が戻ったのを確信するや否や、木内監督は間髪を入れず、ライトからマウンド*6に戻ることを命じた。

この間わずか2球の出来事である。再びマウンドに登った石田投手は息を吹き返し、続く4番清原和博選手、5番桑田真澄選手を打ち取る。

そして、次の回に決勝スリーランホームランをが飛び出し、取手二高は初優勝を果たすのである。木内監督は試合後のインタビューで次のように語った。

「石田は守勢に回ると弱い子なんだ。死球を出して弱気になっちゃったから、一度冷静にさせようと思ったんだ。」

選手の十人十色を熟知した上での選手交代。甲子園の決勝9回裏という切羽詰まった場面にもかかわらず、冷静沈着な決断力と実行力。名将と呼ばれる木内監督の究極の奇策、いや名采配であった。世間から「木内マジック」と称賛されるのもうなずける。

まとめ

今回は高校野球、特に夏の大会に絞った熟思された戦略を振り返ってみた。相手チームだけでなく、観客も思わず息をのむ絶妙な指揮がある。そこからは高校球児たちにとって最後の夏をなんとしても勝たせてやりたい監督の「熱情」も伝わってくる。歓喜と悲哀の3年間を共にした監督と選手たちが、夢に向かって戦っている姿から高校野球という舞台に尊さすら感じるのだ。

野球に限らず、団体スポーツは監督と選手の信頼が否応なしに勝敗に反映されるはずだ。

とりわけ高校野球においては、打球や遠投のボールが遠くに「届く」などの技術的な指導は二の次で、一番大切なのは球児の心根に「愛情」が届く教育ができるかだと思うのだ。

*1:〔和製語 safety+bunt〕野球で,一塁に生きることを目的として行うバント。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*2:〔over the fence〕野球で,外野フェンスを越えて飛ぶ打球。すなわち,ホームラン。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*3:野球で,三塁手と遊撃手の守備範囲の中間。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*4:【ace】野球で,主戦投手。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*5:【arch】 野球で,ホーム-ラン。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)

*6:【mound】野球で,投手が投球する盛り土をした場所。中央に投手板がある。/出典:スーパー大辞林3.0(三省堂 2014年)